------------------------------------------

前回のCG道から、2年半が過ぎ、
私は今でも、あくせくとフリーランスとして働いている。
プロジェクトによっては、書いたとおりの修羅場になり、
「あんなコラム書かなきゃよかった」と思う事が何度もあった。

そんな気持ちで読み返してみると、
自分が書いた文章に自分が身につまされる事になっていた。
まさに人に向けた刃が自分に向いてきたのだ。

しかしそんな事は初めから解っていた事で、
あえて自戒を込めて書く事が、このCG道である。

これを書き続けるのは甘くはないが、
これからも自分に刃を向けてみる事にする。
この文章を読んでいるあなた以上に、私はマゾかもしれない。

仕事というものの総量は決まっている。
この総量をやり遂げる為には、「急ぐ」しかない。
しかしいくら「急いで」も、人間1人の1日の作業量は知れている。
それでも仕事は終わらせなくてはいけない。
結果、1日の総作業量を増やすためには、
できるだけ他の事をする時間を削り、その分を仕事に向ける事となる。
つまり、寝る時間、食べる時間、家に帰る時間を削る
人間らしい生活を削り始めると起こる事は、身体と頭脳の能力の低下。
そんな状態でもやめられない、抜けられない仕事。

修羅場である。

その時あなたは思う。

「なんでこんな事になっちゃったんだろ?
でもとりあえず今はやらなくっちゃな。がんばろう」

そして納品できれば良かった良かったで、終わり。
あ〜あ終わった大変だったね眠れて良かったね。

それでは、永遠に修羅場から抜け出す事はできない
クライアントのせいではない。
CG業界のせいではない。
日本のせいでも、政治家のせいでも、不景気のせいでもない。
あなたは自存自衛のチャンスを逃した可能性がある。
それを考えるだけにとどまらず、反省し実行しなければ
同じ生活を死ぬまで続けるだけになるのだ。

-----------------------------------------------------------------------

3.実制作その2

納品前で行う作業は大別して、
A. チェックと修正のフィードバックループ
B. いわゆる本番レンダリングとコンポジット等のデータ作成作業
の2つに分けられる。

大抵の修羅場はプロジェクトの最後、納品寸前、
つまり後者の時に起こっているのではないだろうか。

しかしその時にはもうどうしようもない。
前述したように、「急いで作る」以上のことはできない。
ではどうすれば良いか。
B以前、つまりAの状態で何かしらの手を打つ以外に方法はなかったはずである。
しかしなぜそれができなかったか。

「対処するべきかどうかがBの時になってみるまでわからなかったからだ。」

本当にそうだったのか?
そこをもうちょっと考えてみよう。
この落とし穴に、あなたは落ちたのだ。

本当にスケジュールの遅れはBの時になるまで認識できなかったのか?
そうではなく、Aの時にうすうす分かりはじめていた事ではないのか?

「わかっていたが、なんとかなると思っていた」
が真実ではなかったか。

この場合、理由はいくつか考えられる。これを検証してゆこう。

○クライアント側の問題

大抵作り手はクライアントのせいにする。そして実際、そういう事も多い。
「あそこであんな注文出さなくたって」
「コンテを後で変更すんなよ」
「この値段と期間じゃ無理だよ」
「今になってそれを言わなくても」
「話がぜんぜん違うじゃんかよ」
もちろんこれは間違っていないのだろう。

しかしこれは成績を出せなかったレーサーが、マシンのせいにするのに近い。
作り手にとって、最も精神的に楽な理由の見つけ方だ。
声高に叫んでも、ただの愚痴にしか聞こえないだろう。
またこの気分は「2度と同じクライアントを選ばない」と言う反省しか生まない。
そのクライアントを選ぶ結果になった事を反省する以外にない。
それはそれで、賢い判断だ。
 

仕事を選ぶ判断基準は、単純化すれば

「その仕事を行う事によって待ち構えている苦労」と、
「その仕事を行う事によって得られるメリット」とのバランスの問題である。

予想した苦労より、選られるメリットが少なかったら、愚痴ってしまうのも当然だろう。
過剰なサービスをしたり、また下手な発注の仕方だったと言ってクライアントを教育し直すほど、
あなたはお人好しでもボランティアでもないはずだ。
初めからそういう事が予想できているのだったら、あらかじめ受けないか、
それも見越した見積もりを出せば良い。

つまり、ここでクライアント側の問題をどうこう言った所で始まらないので、これ以上は書かない。
天災のようなものだからだ。

しかし本当にあなたは最善を尽くしたのか?

ここにこれからの文章の意味がある。

○作り手側の問題
以下に作り手が陥りやすい、ありがちな状況を挙げる。

プロジェクトの初めにあなたはスケジュールを引いた。
フィードバックループ作業(A)の間、何らかのトラブルが発生し、少しスケジュールは遅れはじめた。
しかしあなたは何とかなると思い、クライアントを心配させないため、
そのまま作業を進めた。結果修羅場となったのだ。
(始めから修羅場が間違いなく想定されているスケジュールを立てている場合もあるかも知れない。
いわば特攻。それは根本から間違っていると言わざるを得ない。
そういうノリが好きなら構わないし何も言わないが、私はそのタイプのマゾではない。
特攻でないスケジュールの立て方については、いずれ書きたいと思っている。)

この場合、
自分で引いたスケジュールを無視し、そのまま作業を進めた」という事があなたのミスだ。
決して「スケジュールが遅れはじめた」のが原因ではない。それはただのきっかけ。
初めにスケジュールが遅れたのが例えあなたの技術的未熟さから来たものであっても、
それは大きなミスではなかった。その状態を続ける事を黙認した事がミスだったのだ。
CGソフトを覚えるだけではCG屋はできない理由がここにもある。

修羅場に陥ると現れる症候群の一つとして、
「あそこでレンダリングを間違わなければ」
「あそこでこういう設定をしなければ」
「あんなに時間のかかるシーンデータを作らなければ」
「ここでマシンの調子が悪くならなければ」
「このソフトにこんなバグがあったなんて」
「なんでこんな事で落ちるんだこのソフトは!?」
という枝葉末節の問題を原因に考えてしまう場合が多い。

そうかも知れないが、決してそれだけではない。

ミスそのものは、実はミスではない。
そのミスを致命的なものにしてしまう環境に自身を追い込んでしまった事こそがミスなのだ。
CG制作は冒険ばかり。トラブルは起こって当たり前なのである。
ではなぜ、そのまま作業を進めたのか。

一度決めたスケジュールは、なかなか変更がきかない。
物理的な問題だけではなく、精神的要素が大きい。プライドである。
デザイナー側は、「納期を遅らせたいんです」とこちらから切り出すのはカッコがつかない。
何よりも自分の能力のなさを露呈する結果となると思うからだ。
また、それを決断させない理由の一端はクライアント側にもある可能性が高い

なぜなら、クライアントは「できるだけいいものを作らせたい」と思っている種類の人間だ。
そのためには、意図がそのまま映像になるように、たくさんの注文を出そうとする。
そしてその注文は、「作り手から文句が言われない限り」問題無く遂行されうると思っている
クライアントからしてみれば、その注文がどれだけの作業量になるのか予想がつくわけがないので、
とりあえずやって欲しい事をいうだろう。

そして「これこれもやって欲しいんですけど、、できますかね?」
そうやって作り手の良心に働きかけ、なんとか入れ込もうとする。
もちろんスケジュールからの遅延は避けたいが、できうる限りはやって欲しい
そして作り手が「やりましょう」というのを待っている。
いざOKがでたら、クライアントはこう言うだろう。
「いつもご無理いって申し訳ありません。よろしくお願いします」と。

そしていざ、そのおかげか、結果納品が遅れたら何と言うだろう。
「納品できるかどうか先を読んでくれないとな?。なんで言ってくれなかったの?」
あなたの負けです。
あなたは「ごめんなさい」と言う他ないのだ。

別にクライアントが悪いわけではない。
彼らは市場原理に乗っ取りつつ、できるだけ良いものを作ろうとしている。
ただこの”なんとかなるっしょ”的傾向は、
修羅場に向かう原因となりうるものである事は確かだ。
このにハマったあなた自身の甘さが、修羅場への道を開いたのだ。
 
 
 

あなたはこう言うべきだった。

「これをやっていてはスケジュール通りにできません。」
 

この台詞を言えるかどうかは、
様々な意識から離れ、
冷静なスケジュールの足し算引き算、そしてそれを踏まえた
冷徹な判断が出来るかどうかにかかっている。

そもそも修羅場になってから、「このままではできません」を言っても無駄だ。
なぜなら上記の3つの処置を行うのはある程度の時間がかかるからである。
だからこそ、上記のAの時期に判断を下さなければならないのだ。

あなたには次のプロジェクトから、この判断ができるか?
どんな人でも陥りがちな、「判断できなかった」というミスを克服できるか?
 
 
 

その為に、正しいスケジュールを立てる事が重要なのだ。
初めにスケジュールを立てておき、クライアントに見せておく事が重要なのだ。
そうすれば、「元々の予定からどれだけ遅れたか」が見え、
それを問題とする事が可能になるのだ。

スケジュールから遅れたら、それをすぐに関係者全員の認知できるものとする
そしてその対処を話し合う。そこまでできれば必ず道は開けるはずだ。
 
 

スケジュールより遅れているプロジェクトを終了させる為には、基本的に4つの方法しかない。
1.コンピュータを速くする
2.人を増やす
3.作業量を減らす
4.納品時期を遅らせる

「スケジュール通りに納品されない」という事が「仕事が落ちた」という事であって、
「スケジュールを伸ばす」という事は「仕事が落ちた」という事にはならない。
よって重要かつ有効な考慮事項である。

この3つをもう一度、深く考えてみるのが良い。
1.本当にCPUパワーは増やせないか?
2.本当に人は増やせないか?
3.本当にやることは減らせないか?
4.本当にスケジュールは伸ばせないか?

10年前と違いCPUパワーはそれほど重要ではなくなりつつある。
この中で一番有効なのは、悲しいかな3か4なのである。
そしてそれは、クライアントにお伺いを立てなければできない。
もっとも辛い決断なのである。

「これではできません」と言った後に、やさしいクライアントならこう聞くだろう。
「ではどれだったらできますか?」
「ではどれくらい遅らせればできますか?」

これに対して、あなたは出さなければならない。
具体的な答えを。

これを可能にするのも、やはり当初立てたスケジュールから推定できる冷静な判断なのである。
決してその場限りの「蕎麦屋の出前」状態になってはいけない。

そして完成時刻は心を鬼にして、さらに水増しして伝えよ

必ずこういう時、人はいい顔をしようとして
最速、最良の結果としての見積もり時間を
言ってしまいたくなるものだ。
外部の者にそれをそのまま伝えてはいけない。トラブルは必ず起こる。
あなたはトラブルなしにCGを作りきった事があるか?

繰り返すが
誰でもミスは起こす。大きな問題ではない。
それを致命的にしてしまう事がもっとも大きなミスなのである。

ミスの為の水増し時間は絶対に必要なのである。
泥の上塗りになる危険がある。
 

そして決まったら、何も考えず全開で突き進め。
何があっても納期までに作り上げろ。
あなたに言い訳をする権利はもうない。
 
 

(つづく)
 
 
 
 

BACK