2.3.実制作、チェック、修正

制作中のフィードバックのうまくできる人間こそが、
優秀なデザイナーである。

CG映像制作における工程(まずモデリングから始めて、つぎに質感をつけて…)なんて、ここでは周知の事として飛ばす。大体雑誌や本なんか見てても、そんな事ばっかりしか書いてない。
そんな事だから”ソフトを知ってれば仕事ができる”と誤解する輩が増えるのだ。
繰り返しになるが、ソフトだけを知ってても仕事はできない。ソフトの扱いは知っているが、一緒に仕事をしたくないタイプのデザイナーは山ほどいる。
そういうタイプは決まって、チェックの材料作りとタイミングを間違うのだ。(私もそうだった。あえて過去形!)
”デザイナーとはどんな仕事か”という事にからんできそうな話題だが、この実制作のプロセスが”デザイナー”になっていない、ひとりよがりのにわかアーティストになってしまわないよう、自戒を込めてこれを書く。

○選択能力

なにかモノを作ったら、それからの道を選択し、再びモノをつくる。


CG制作のプロセスは、結局のところ、これだけの事の繰り返しだ。
モノを作るやり方は、いくらでもその辺に転がっている本でも読めばいい。問題は、”どの道を選択するか?”という事だろう。
デザイナーの命は”選択眼”だと思う。いくつかのチョイスの中から、どの道を選ぶかによって、完成形は変わってくる。人生も選択で決まってくるので、
良いデザイナーは良い人生を送る”というのが私の持論だが、ここではそこまでは言わない。(←言ってるって)
映画”タイタニック”でもデュカプリオが言っていた”与えられたカードで最善を尽くす”と言う事だ。
これをCG制作に当てはめれて考えるとどうなるか?モデリング、質感、ライティング、アニメーションのタイミング、どの場面においても、あらゆる選択肢が用意されているではないか!表現の方法だけではなく、表現の為のプロセスも無限にある。
この辺の選択には、ソフトの知識も重要になってくるが、本当に重要なのは、”どの選択肢が存在していて、そのどれにどういう長所と短所があって、
自分はどの選択が正しいと思っているか?”と言う事が整理できているか?という事だ。
整理できずにただ漫然と作業を進めた時点で、間違った道に進む事になるかも知れない。作業が2度手間3度手間になるかも知れない。
ということは時間のロスが起こるかも知れない。ここでも修羅場へのカウントダウンが始まる事になる。
解らないことがあっても、整理さえできていれば良い。整理さえできていれば、


○解らない部分を人に聞くことができる。
○行きたい方向を変える事ができるかもしれない。
(例をあげれば、やっぱりここはモデリングしているのは意味がないから、マッピングで行きましょう、とか)
○スケジュールが伸びるかもしれない、ということを、まず自分で把握することができる。
○それをクライアントにいち早く伝える事ができるかもしれない。(もちろんイヤな顔をするだろうが、土壇場でモノができない!よりはずっとマシ)
○人に聞く事ができる。選択が正しいかどうか?もっと良い選択肢はないか?

全てにおいて先手を打てる。

解らない問題をはらんだままプロジェクトを進めるのは、暗い夜道をヘッドライトなしで走るようなものだ。事故の確率は高い。
問題があるのなら、立ち止まっていち早くテストだ。問題のエッセンスだけを取り出して、もっとも楽な、速い方法で、テストをしてみよう。その時間もあらかじめスケジュール表に入れられるようになればバッチリだ。

そういう事が、整理されていますか?
他人が制作中に評価してくれない、自分の作品の中でも、整理ができますか?
修練の場は、探す目さえあればどこにでもある。日常生活にも。
あなたは日頃、どんな交通手段で通勤していますか?その選択はいつも正しいですか?
それと同じ事。

そう、整理しようと努力する事さえも、あなたの人生の選択肢の一つなのですよ。
選択して一歩前へ出たら、迷っているのは無意味だ。信じて突き進め!

制作の選択の幅を広げるのは、ソフトを扱える能力。
しかし選択眼は、それとは全く別のものだ。
そして、時に良い選択は、 SGIの速いCPUでも追いつけないほどの、制作のスピードアップ、作品のクオリティアップをもたらすのだ。

○コミュニケーション能力

もう一つ大切なのは、コミュニケーション能力だろう。子供の使いデザイナーやひとりよがりアーティストには、決まってその能力がない

簡単な例を挙げてみよう。

静止画を一枚作る仕事を受けたとする。
クライアントは作って欲しいモデルと、大まかなカメラアングルを指定した。
そのカメラアングルは、どうも無味乾燥な、つまらないものに思えた。
そこで、あなたなら、どうする?

1.指定されたアングルでレンダリングしてチェックの材料とする。
2.もっといいと思うアングルでレンダリングしてチェックの材料とする。

上記の2つのどちらかでは、全く駄目だ。
1では 子供の使いデザイナー
2では ひとりよがりアーティスト

にしかならない。

最悪なのは、クライアントにチェックの時間も作らせず、そのまま制作を続けた挙げ句、
2を提出するパターン。うまくクライアントが納得してくれればいいが、もしそうならなかった時は
言うまでもなく、目も当てられない。修羅場もしくは喧嘩だ。
さらに喩えるなら、
ラーメン屋でしょうゆラーメンを頼んだのに、店のおやじが勝手に
「こっちの方がうまいよ〜」なんてみそラーメンを出してきたら、いくら旨くても怒るというものだ。

最良の結果を得る為には、

1.指定されたアングルでレンダリングする。
2.もっといいと思うアングルでもレンダリングする。
3.客観的にみてどちらが良いか考えをまとめる。(大体2だろうが)
4.チェック時には両方の絵を見せた上で、お勧めがどちらか、意見を述べる。

この全てを行ってこそ、コミュニケーションのできるデザイナーの仕事といえるだろう。
すなわち一般的に言えば、
デザイナーが用意するチェックの材料は、
指定されたもの、もっといいと思うもの、それを自分で見た上での意見
の3つということになる。
わざわざ1.を行うのは、コミュニケーションの為だ。
これらの材料を見てはじめて、クライアントは決定が行える。
そのプロセスの中で意見があう事が確認できるようになって、初めて
デザイナーに仕事をまかす気になる、と思う。
チェックの時間がなかったとしても、自分の中でそのくらいの試行錯誤があってもいい筈だ。

もちろん、そんな材料を作っている時間や予算がなければ、
もっとも安全な、間違いのない選択をする(1を選ぶ)のが、正しい方法だろう。
それは”子供の使いデザイナー”ということにはならない。結果は同じでも。
ま、結果が同じなら、そう見られるかもしれないが。
しかし、あなたは最大限の努力をしたことになる。

結論を言えば、自分、そして他人も含めた中での、”制作、それを見てチェック、修正してまた制作”という、フィードバックのループの作り方のうまい人間こそが、良いデザイナーといえるだろう。
良い仕事の仕方をする人間は、ゴールへの最短距離を走る。
よって、早く仕事を完成させられるのだ。
悪い仕事の仕方をする人間が、どんな速いCPUを使ったところで
かなう筈もない。


(つづく)




BACK