納品まであと?時間!すでに徹夜を何回も数え意識は朦朧身体は疲労のピーク、
最終レンダリングはまだ回っている。
その終了時間は大体わかるが、その後はコンポジットとデータ変換が待っている。
はたして本番解像度でどれ位時間がかかるのか?
そこに来る催促の電話....
そんなとき、先輩がそこにいたら、科白は必ずこうだ「あの仕事のときは、こんなもんじゃなかったなあ」

プロジェクト終了時の、そのような”修羅場”を何度経験してきた事だろう。
あなたもCG屋、もしくは何らかの納期のある仕事をする人ならば、似たような経験があるだろう。
必ずプロジェクト終了時には、こんな時があったりするものだ。
「2度とこんなやり方するものか」と思っていても、必ずそうなってしまう。

それは果たして、あなたの「仕事へのコダワリ」から来ている物なのか?
「もともと好きで始めた仕事だし、CGなんてこんなもんさ」とあきらめていないか?
あなたは、そんな生活をしなければ得られたであろう、CG以外の人生を、捨ててはいないか?
本当にそれでいいと、思っているのか?

私もそれらの質問を、自問自答してきた男だ。
成功の経験は数少ないが、私なりの対処法を、ここに書く。
言いださなければ、始まらない。
お互いに、悔いのない人生を送ろう。

○先手必勝!

プロジェクトの主な進行は、私が考えるに、この様なシーケンスに分けられる。

1.制作前打ち合わせ
2.実制作
3.チェック、修正
4.納品
5.納品後

これから、順を追って説明してゆく。

1.制作前打ち合わせ

あなたは、プロジェクトを、いつ始まり、いつ終わるものと思っているか?
私の考えでは、
プロジェクトは、クライアントから依頼された瞬間に始まり、代金が振り込まれ、データをバックアップして終了する。
この間の、あなたの考え、行動、すべての事が、プロジェクトの進行に関わってくる。
なんとなく、「実制作し始めたときから始まり、納品で終わる」と思ってはいないか?知ってはいても、そういう意識はないか?
それでは、駄目である。

仕事の依頼があった瞬間には、その後の仕事に大きく関わる落とし穴がたくさんある。
もちろん納品が終われば一安心だが、その次の仕事での瞬発力を養う時間は、データ整理の時だったりする。

この2点での行動、特に前者をいいかげんにしていては、絶対に修羅場からは、抜けられないだろう。
その心構えから、先程書いたような修羅場へのカウントダウンは始まっているのだ。
考えるべき事柄を、これから自戒の念を込めながら挙げてゆく。

まず、クライアントから依頼がある。
締め切りは、ほとんど決まっているものだ。また予算を提示してくるだろう。

それらの予算、時間で、本当にOKなのか?
そこで本当に正しい判断をしているか?

私はできるだけ即答は避け、一日時間をもらうようにしている。
自分自身で考える時間を置かないと、正しい予測ができないからだ。
また、一日以上だと、相手に迷惑をかける事になる。
「当てにされたまま時間が経ってしまったので、断りにくくなってしまった」なんて事になったら、
あなたの交渉は敗北である。

その一日で考える事は何か?
漠然と「こんなもんかな〜?」で決めてしまっては、その決定に時間をもらった意味がない。

○しなければならない仕事の全列挙
○それらにかかる時間の予想
○スケジュールの組み立て
○プロジェクトにおいて起こりうる問題の洗い出し
○スケジュール表の作成、提出
○クライアント側の確認

これらを完全に行なって、始めて「やります」と言える自信が出てくるというものだ。
最後の「スケジュール表の作成、提出」を疑問に思った人もいるだろう。

なぜこちらが作成、提出しなければならないのか?

答えは簡単。

作るのは、自分だから。

作る当人でなければ、どれだけ時間がかかるかの予想は絶対にできないものだ。
また、クライアントがスケジュール表を出してきたとしても、それはクライアント側に都合よく作られたものであって、
自分の事を考えてくれたスケジュール表ではない。それを鵜呑みにしては、絶対にいけない。
自分でスケジュール表を作る事により、自分でしか見えてこない問題が出てくる事もあるものだ。

もちろん予想だから難しいことだ。
しかし、完璧に少しでも近づく方法はある。

それにはまず、初めにクライアントから話があった時に、できるだけ上記の項目を満たすのに必要な情報を集める事だ。

モデリングはどれとどれをやるのか?
質感はどうするのか?
資料はどれだけもらえるのか?
納品形態はなにか?解像度は?
その作品に対し、どのような希望があるのか?
チェックは誰にお願いすればいいのか?どれだけ自分に任せてもらえるのか?

特にチェックについての確認は重要である。打ち合わせの当人が完全な権限を持っているならまだいいが、
そうでない場合はチェックに手間、時間がかかる場合がある。この部分を計算に入れて置かないと、
スケジュールは大きく遅れる。当人が権限を持っている場合は、その当人の作品クオリティに対しての
考え方を探る必要がある。何回チェックでいけるか?チェックにはどれだけ時間がかかるのか?
また、コンテをもらっていても、そこには見えていない作業がみえてくる可能性がある。
心の目を凝らし、作業をしている自分をシミュレートしながら、しっかり見る事だ。

情報を集めたら、それら全てにかかる時間を予想、算出、カレンダーに書き込む。
スケジュール表の作成だ。

それにあたっての注意点はいくつかある。

やるべき事が、本当にすべて挙げられているか?例えば、チェックの為にはそのためのネタを用意しなければ
ならない。またそれをもって行き、帰ってくるのにも時間がかかる。”ネタ作り、チェック、打ち合わせ”という項目
だけで最低半日、できれば一日を見積もっておきたい。)
一日何時間働くのか?を明確に考え、余裕を必ず持たせる事。
一人は一つの作業しかできない。もし作業が重なった時があるとしたら、それは見積もりの誤り。

これらを守ってこそ、平和な生活が保証されるのだ。

書き込んだら、そこで始めて、金額の計算ができるだろう。

何日分働くのか?日給で考えればいくらになるのか?
それで満足か?
納得できる金額を考え、必ず理論武装すること。

これだけの事が、初めの打ち合わせで瞬時にできるものなのだろうか?一日もしくは一晩は、私には絶対に
必要な時間である。

そしてそれを翌日クライアントに提出し、OKをもらう。
必ずしっかりと説明し、OKをもらった事を確認しなければいけない。
大体クライアントは、締め切りさえつじつまが合っていれば後はいいかげんにしかそれを見ようとしない。
「つまりいくらだ?」と聞いてきて、答えれば次の科白は「もっと安くなりませんか?」
そこでさっきの理論武装が有効になり、その説明が必要になる。

作業はどの順番で行うか?
いつのチェックでは、どれだけのものを見せる事ができるのか?(アニメーションチェックなら、質感はどうするのか、
解像度はどうなのか等)
そこで上がってきた修正に、どれだけの時間をかければ答えることができそうか?

大体クライアントは2、3回モノを見て修正を入れなければ満足しない。
この時に何回分のチェックを行なって作品を進めるかを明確にしておくのだ。
そうしておけば、もし修正が増えたときに、追加作業として考え、扱う事ができる。

それは当然、値段にも影響してくるはずだ。

もしOKがもらえなかったら、クライアントがあなたにかけた時間は一日で済んだ。早々に断ろう。
ここで含みをもたせたりしては、落とし穴にハマる事になる。
妥協すれば、制作中はずっと後悔する事になる。

ここでの作業を怠った場合どうなるか?

自作のスケジュール表がでなければ、当然向こうのいいなり、と言う事になる(こっちがそう思っていなくとも)。
チェックの日などしっかり決まってないだろうから、制作に入ってからいきなり向こうの都合で決められて
見せたものとクライアントの見ようとしていたものにはギャップがきっとある。そのため予期しなかった修正や
再チェックが起こり、あなたがささやかに心積もっていた予定はくずされ、関係は悪化するだろう。

悲劇は両方に起こる。

それでも納期を守ろうと、あなたは必死努力するだろう。
連日の泊まり込み睡眠不足疲労からくる能率の低下...
努力して仕上げて、納品して、満足してもらえれば、まだいい。
もし遅れたり、双方が納得したクオリティでなかったりした時、
それはあなたのせいなのか?それとも無理な発注をしてきたクライアントのせいなのか?

それであなたのせいにされたらたまらない。
しかしそれは間違いなく、プロの仕事として考えたとき、「やるといった仕事をやらなかった」あなたの責任なのだ。

これだけの事さえもさせてくれないクライアントに対しては、はじめから断った方がいい。
逆に、おおまかなスケジュール表も提示しない制作者には、疑いの目でかかった方がいい。

スケジュール表は諸刃の剣でもあるが、よほど下手に作らない限り、自己防衛の為の有効な切り札となるのだ。
作る価値は十分にある。

(つづく)

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